Abstract | I. はじめに 冠不全患者は, いろいろな危険因子をもった中高年令層にしばしばみられ, 臨床的には虚血性心疾患として知られている. 冠不全の病態生理や薬物療法は, 近年著しい進歩をとげているが, その内科的治療の主体は, 冠血管作用薬と末梢血管拡張薬の併用療法である. ところでニトログリセリンは, 古典的な薬物であるが, 近年その薬理作用が見直され単独でこの併用効果を得られることが知られてきた. また冠不全患者は, われわれ麻酔科医にとっても, 手術や麻酔にさいして遭遇することが多く, その対策に難渋している. ところでニトログリセリンは, 近年そのような麻酔時に好んで用いられるようになってきた. 本稿では, 冠不全患者の病態ならびにニトログリセリンの作用について, 現在における考え方を文献的に解説するとともに, 麻酔時の臨床応用について, われわれの経験を加えながら解説したい. II. 冠不全患者の病態 1. 冠循環と心機能 冠血管は, 大動脈洞にある左右の冠状動脈より始まり, 次第に分枝して心筋を外層より内層に向かい, 各層で毛細血管網を形成した後, 冠状静脈より冠静脈洞を経て右心房に還流する. |