Abstract | 1. はじめに 四半世紀以上も前から哺乳類の心房筋細胞中には心室筋細胞や他の筋組織には認められない特殊な内分泌顆粒の存在が超微形態学的に知られていた1,2,3)がその生理的意義については長年の間不明であった. 1976年, Marieら4)および1979年にde Bold5)によってラットに水又は塩分の経口摂取を制限すると, この心房中の顆粒の占める面積が有意に増加し, 塩分負荷では逆に減少する事実が見いだされ, 水-電解質代謝に関与している可能性が指摘されるに至った. その後, 心房の組織抽出物をラットなどに投与するとナトリウム利尿, 血圧降下が認められることが相次いで報告され6,7,8), また本活性物質はプロテアーゼやトリプシン処理で容易に失活するが, 熱には安定であること7,9,10)などからその本態がペプチドであることが明らかにされてきた. このような経緯から心房由来の利尿作用を有するペプチド(atrial natriuretic polypeptide, ANP)はまさにホルモンとしての定義に合致する新しい活性ペプチドとして多くの研究者の関心を集め, 短期間のうちにアミノ酸配列, 遺伝子構造, 生物学的作用などに関する多くの知見が集積されてきた. |