Abstract | 冠動脈疾患を持った患者に対し, 心臓手術あるいは非心臓手術を施行するために全身麻酔をおこなうことは, 今日, めずらしいことではない. 冠動脈バイパス術の施行患者で, 手術死亡の40%は術后心筋梗塞が原因であり, その発生頻度は麻酔中に心筋虚血が起こった症例で有意に高いとされる1). また, 心筋梗塞発症の急性期には梗塞部の周囲に冠血流量の減少した境界領域が存在し, その部位を保護することにより最終的な梗塞範囲を小さくできるといわれる2). したがって, 虚血心患者に対する安全な麻酔管理法は種々の工夫を必要とし, 現在のところ, 一定した方法が確立されていない. ここでは, 各種麻酔薬の虚血心に与える効果を冠血流量, 心筋の酸素需給バランスおよび心筋代謝などの観点から比較し, 現在における虚血心患者に対する最も安全な麻酔法を検討してみた. 1. 吸入麻酔薬と虚血心 (a)ハロセン Francisらは, 犬で冠動脈狭窄を作成し, ハロセン吸入による血圧低下時に虚血部の冠血流量は減少し, その部位の機能不全を生ずるとしているが3), Buffingtonらは, 1985年, 局所の心筋機能異常はハロセンそれ自体の効果ではなく冠灌流圧の減少によるものと結論づけている4). |