Abstract | 「はじめに」心臓に負荷が加わると, 心筋は肥大を形成して収縮単位を増加させ, 心機能を保持するように代償する. しかし負荷が持続して過剰になると, 心筋の適応現象に破綻をきたして心機能は著しく低下し, 心不全の病態が形成される. それではこのような負荷に対する心筋の適応と破綻の現象である, 心肥大から心不全への過程は, 生化学的にどのような機序として理解されるであろうか. 循環器病学において臨床的に最も重要なこのような課題は, 最近進展の著しい分子生物学に基づいた心筋に関する知見の集積により次第に明らかにされつつある. そこで本稿では, 心筋の代謝面からアプローチを加えてこの課題を考察し解説する. 「1. 心筋の負荷に対する適応と破綻」心臓に負荷が加わった際に, 心筋が示す反応を経時的にみると, 図1に示すように, 負荷急性期と負荷慢性期, さらに負荷非代償期に大きく区分することができる. 急性に負荷が変化した際には, 心筋自体に備わった代償機構と交感神経・カテコラミンの作用により収縮力が増強されて心機能が保持されるように対応する, しかし加わる負荷に対して心筋の肥大がまだ十分に形成されていない段階では心筋の量的な増加が不十分なために, 単位心筋量当たりの負荷量が大きくなり, 相対的に心機能は低下するところとなる. |