Abstract | 「はじめに」臓器虚血の特異性を論じる際に, その臓器の持つ特性を論じる必要があることは自明のことである. 虚血という病的状態において脳という臓器に特有な障害過程が発動され, また応答現象が生じうるのかを知るためには脳自身に対する深い知識が要求される. 今日この脳を科学的に究明することを命題とした脳科学は分子生物学的各種手法の進歩や医用工学的方法の進歩とともに長足の進歩を遂げつつある. しかしながら, この脳自身に対する大胆な科学的理解のメスをもってしても, その知識の集積を統合的に整理し, 理解することは, 今なお, 「群盲像をなでるが如し」と言わざるを得ない状態である. そのような意味で, 脳自身を語るに等しい脳代謝の特異性というテーマはとても筆者の手に負えるテーマではないことを先ず最初にお断りせざるを得ない. 筆者はこれまで10年以上にわたって, 先輩諸氏の脳虚血病態究明の足跡を辿りながら, 脳を障害する大きな要因である虚血病態を究明し, 脳を守り, 救うための方策を求める戦列に加わってきた. 本稿では, そのような一戦士の立場から筆者の考える脳代謝の特異性に関する私見をまとめるとともに, 筆者らの研究室で得られた結果の一部を紹介する. |