Abstract | 「要旨」呼吸時の腹圧の変化の下大静脈還流に与える影響を, abdominal vascular zone conditionsという新しい概念を導入して解析した. 簡単な下大静脈系のモデルに基づいて中心静脈圧が腹圧より高い時をzone III abdomen, 中心静脈圧が腹圧より低く下大静脈が虚脱してvascular waterfallが形成されている状態をzone II abdomenと定義した. 腹圧の増加は下大静脈還流をzone IIIでは増やしzone IIでは減らすことをモデルの数学的解析によって示し, 下大静脈バイパスを用いた犬の実験で(N=12)検証した. 循環系の予備力が少なく複式呼吸が主体の小児心疾患患者では, 呼吸時の腹圧変化の静脈還流に与える影響は無視できない. また呼吸以外の原因による腹圧の上昇(腹水, ショックパンツ使用時など)の静脈還流および心拍出量に与える影響の理解も周術期管理のポイントである. Abdominal zoneの概念は上記のような病態の理解に生理学的にも臨床的にも有用であると思われた. 「はじめに」集中治療医学の発達により人工呼吸をはじめとする積極的呼吸循環管理が日常的に行われるようになった最近では, 呼吸が循環系の血行動態に及ぼす影響すなわち呼吸循環相互作用の理解は, 単に生理学的な興味としてだけではなく臨床の患者管理の上で重要性を増して来ている. |