Abstract | 「はじめに」心臓や血管の外傷は数ある外傷の中でももっとも緊急度が高く, 迅速かつ適切な診断と外科的治療がなされない限り, 救命は困難である. 日本医科大学救命救急センターでは昭和50年4月より平成2年12月までの15年9か月間に心臓外傷143例と血管外傷308例を経験したので, これらの治療経験をもとに, 心臓および血管外傷の診断と治療につき述べる. 「心臓外傷」我が国における心臓外傷の報告は比較的少なく, かつては心臓刺創がその主体を占めていたが1)〜5), 近年の高速度交通の発達や高層建築の普及は鈍的心臓外傷という新しい概念を形成し, 注目されるようになった6)〜12). このような鈍的外傷を主体とする損傷形態の変化は戦時中あるいは米国の市民生活におけるような銃創を主としたものとはかなり趣を異にしており, さまざまな病態の惹起されることが明らかとなってきた. 筆者の経験した心臓外傷143例の内訳を表1に示すが, 穿通性損傷34例に対し鈍的損傷109例であり, その割合は約1対3であった. 「1. 穿通性心臓外傷」胸壁は穿通性の物体から心臓を守るという点ではほとんど役をなさないため, さまざまな形の心臓外傷を引き起こすわけであるが, これらを分ければ, (1)心筋の損傷, (2)心膜の損傷, (3)心室中隔の損傷, (4)弁・腱索・乳頭筋の損傷, (5)冠動脈の損傷となる. |