Abstract | "人工血液"の定義であるが, 血液は血漿からなる液性成分と赤血球, 白血球, 血小板からなる細胞成分からなり, それぞれ複雑多岐な機能を担っている. 従って, これらの機能をすべて有する人工代替物を作り出すことは現在のところ不可能であり, 現時点でかろうじて血漿増量剤, 電解質溶液その他の補液が人工物として臨床で用いられているに過ぎない. これまで"人工血液"と称して研究されてきたのは, 細胞成分のうち赤血球の機能である酸素運搬能を代替する人工的酸素運搬体である. そこで, 本稿ではこの人工的酸素運搬体を中心にその開発の現状と臨床適応について言及したい. 「1. 開発の現状」人工的酸素運搬体の開発は3つの世代に分けられる1). 第一世代が化学物質であるパーフルオロケミカル(PFC), 第二世代がヒト赤血球由来ヘモグロビン(Hb)の修飾体, そして第三世代が完全な人工物である組替えHb(rHb)や合成ヘムなどである. PFCは, 主成分がフルオロカーボンといわれるフッ素化合物で, 酸素溶解能に優れ化学的に安定であるが, 疎水性であるため輸注には界面活性剤による乳化が必要となる. ミドリ十字で開発製造されたFluosol-DA20%は, 日本やアメリカを中心に数多くの臨床試験が行なわれ, 主に宗教上の理由から輸血を拒否する症例や適合血が間に合わない場合に使われた. |