Abstract | 盗流現象すなわち"steal"という言葉は1961年に"subclavian steal syndrome"としてはじめて使われ, 椎骨動脈を介して血流が脳から逆方向に流れることにより脳虚血を起こす現象として記載された1). その後, 数多くの血管性感流に動ずく局所虚血が報告されている2)が, 冠動脈の潮流に関しては3種類になるようである. すなわち, 1)生来もっている冠動脈の奇形によるもの, 2)動脈閉塞性疾患(動脈硬化性病変を含む)によって生じるもの, そして, 3)動脈硬化性冠動脈疾患に血管拡張薬を投与して生じるものである. また解剖学的には, 1)intercoronary steal, 2)intracoronary steal, 3)arteriovenous stealと分類される3). 今回この冠動脈の盗流による冠動脈虚血を前記の分類に従って概説し, さらに現在興味がもたれている冠拡張薬による冠盗流の機序, および臨床応用について述べてみたい. 「1. 冠動脈の奇形による冠直流」通常よく認められる先天的冠動脈奇形による冠盗流は, 肺動脈主幹部より左あるいは右冠動脈が起始している場合である. 左冠動脈の起始異常では, 生下時に肺動脈圧が下がるために高圧系の右冠動脈から低圧系の左冠動脈へ側副血行を作成, さらに肺動脈へと巨大な動-静脈シャントを生じ, 右冠動脈領域の冠盗流による心筋の虚血, 及び左室機能異常を生じる4). |