Abstract | 「I. はじめに」1983年Reizら1)が, イソフルレン(以下Iso)による心筋血流分配異常と思われる麻酔中の心筋虚血の症例報告を行なった. これに端を発してISOが虚血心にとって是か否かの議論が沸騰し, 以来現在に到るまで動物実験・臨床両面でこの問題に関する多くの研究報告がなされてきた. 最近では冠動脈バイパス手術(以下CABG)患者を対象としたいくつかのoutcome studyが行なわれたが, まだ未解決な面も多い. 一方ではセボフルレン(以下Sev)やデスフルレンなどの吸入麻酔薬が登場し, ISOについての結論が出されぬままこれらの薬物の臨床使用が開始されている, 本稿では, 麻酔科領域のcoronary stealに関する最近の動向を追うとともに, 当教室で行なわれた吸入麻酔薬の急性実験の結果をSevを中心として紹介する. 「II. 動物実験における動向」「1)ハロセン」Hickeyら2)の研究でしめされたように, ハロセン(以下Hal)の冠拡張作用はIsoより弱く, 作用部位もISOと異なり心外膜面の太い動脈にも働く3)といわれている. またHal吸入下で冠動脈を狭窄すると, 側副血行依存領域の心筋血流量が正常域の心筋血流量と平行して低下することから, Halはstealを起こしにくいとされている4). Halの虚血心に対する作用については多くの研究がある. 当室でもさまざまな指標を用いて冠動脈狭窄犬におけるHalの作用をみてきた. |