Abstract | 「1. はじめに」心臓電気生理学の研究には心筋細胞の膜電位を記録する装置が不可欠である. しかし細胞膜を出入りするイオン電流を記録し得なかった時代には主に吸引電極suction electrodeを用いて障害電流を記録し活動電位を推定するにとどまっていた. 1940年代のガラス微小電極法glass microelectrodeの開発によって, 活動電位action potentialが直接記録できるようになり, 心筋細胞の電気的現象の解明に多くの知見をもたらした. しかし吸引電極法は微小電極法に完全に取って代えられた訳ではなく, 研究目的や対象によっては微小電極法より吸引電極法が適している場合もあり, 現在でも多くの研究に使用されている. 本稿ではそれぞれの原理, 方法および特徴について述べる. 「2. 原理」微小電極法:電解質液を満たした微小なガラス管を細胞内に刺入し細胞内外の電位差を記録する方法である. 細胞の電気現象を直接とらえることが可能で, 電極挿入による細胞の障害はほとんどなく, 電流のリークは無視できる範囲であるとされている. 吸引電極法:心内膜または心外膜表面の一部に陰圧を加えて細胞を傷害し, その近傍の2点間の電位を計測すると単一細胞の活動電位波形に類似した電位を記録することができる. これは単相活動電位monophasic action potential(MAP)と呼ばれ, 障害部位近傍の心筋細胞の活動電位の総和と考えられている. |