Abstract | 「はじめに」近年, 肝血行遮断, 灌流による肝切除術や肝臓移植手術など, 肝臓外科領域の進歩には目覚ましいものがあるが, その手術手技の発達はもとより, 周術期の肝臓の血行動態, 酸素需給動態や肝機能の維持に関する基礎的, 臨床的な研究の発展に支えられているところも多い. 本稿では, 麻酔・手術中における肝循環, 肝機能維持の観点から, 1)麻酔薬による肝循環, 肝酸素代謝の変化, 2)麻酔によって肝虚血は惹起されるか, また3)肝虚血と吸入麻酔薬による肝障害との関係, などについて触れてみたいと思う. 麻酔と肝循環に関しては, すでにGelmanによる総説1)のほかに, 著者ら2), 藤田ら3)によって詳述されているが, 種々の麻酔薬の肝循環, 肝酸素需給動態に及ぼす影響については, 著者らの教室で行った研究の成績を元に解説していきたい. 「1. 肝循環の調節機構」肝動脈血流量と門脈血流量の関係は, これまでreciprocal relationshipと説明されて来たが, 門脈血流量の変動に対応して肝動脈血流量は増減するのに対して, その逆は認められないところからLauttらは肝動脈側の血流調節機能を重視して, "hepatic arterial buffer response"(以下HABRと略す)と表現している4,5,6,7). |