Abstract | 「要旨」過去4年間に低体温下循環停止法(HCA)を補助手段に用いた成人手術20名から, その適応, 有用性, 安全限界, 麻酔科的な問題点についてretrospectiveな検討を行なった. その内訳は胸部大血管疾患11名, 下大静脈内に腫瘍が浸潤した腎腫瘍3名, 大動脈に著明な石灰化を伴う虚血性心疾患6名であった. 平均循環停止時間は35分, 平均最低直腸温は23℃であった. 術後の中枢神経障害は3名で, 循環停止時間がいずれも30分以上であった. 周術期死亡は体外循環離脱不能による術中死が2名であった. 原因は心不全であり, 年令, 性及び体外循環のパラメータとは相関がなかった. 冠動脈再建術についてHCAと通常の方法を比較すると, 脳保護効果, 出血, 心機能などに関して有意差はなかった. HCAには安全限界があるが, 今後種々の手術の補助手段として重要な役割を果たすと思われる. 「はじめに」低体温下循環停止法(Hypothermic Circulatory Arrest:以下HCAと略す)は先天性心疾患に対する手術時の補助手段として, その有用性はすでに確立されている. |