Abstract | 「はじめに」平成8年1月23日の最高裁判所第3小法廷は, 術中の血圧管理について, 医療現場において, 従来慣行的に行われていた実態と若干懸け離れた法的判断を示し, 医・薬学界に大きな議論を巻き起こした. 本稿においては, 専ら法的観点から, この判決が示した問題点に検討を加えたうえで, 今後の裁判所の見方の行方について, 若干の示唆を試みてみたい. また併せて, 本症例の周辺にある行政に係る疑問点についても問題の提起をしてみたい. 「事案の概要(判例時報1571号57頁)1)」X(当時7才の男児)は, 昭和49年9月25日午前零時30分頃, 腹痛と発熱を訴え, 同日午後3時40分頃までに医療法人Y1の医師Y2らによって虫垂切除手術(以下, 本件手術という. )が必要であると診断されて, Y1に入院した. Xは, 午後4時25分手術室に入り, 外科医Y2の執刀で午後4時40分より手術を受けた. Y2は, 術前に, 介助者として看護婦3名と連絡係看護補助者1名を配置し, 偶発症に備えて血管確保の意味で点滴を開始し, 午後4時32分頃, 第3腰椎と第4腰椎の椎間に, 0.3%のペルカミンS(以下, 本件麻酔剤と略称する場合もある. )1.2ミリリットルを注入し, 腰椎麻酔を実施した. |