Abstract | 「はじめに」生物のもつ機能や構造を解析し, それを人工的に再現して利用しようとする学問「生体工学」の進歩はめざましく, 分子生物学の分野にさまざまな工学的手法が取り入れられてきた. 遺伝子工学もそのひとつで, 診断や治療に応用されるようになった. 心臓血管の領域でも, 原因遺伝子がコードするタンパク質の機能が解明され, 心不全や高血圧症, 動脈硬化症に関連する病態の診断や治療に関する分子生物学的研究が盛んに行われている. 最近, 家族性肥大型心筋症の発症に7つの遺伝子が関与していることが明らかにされ, 診断基準や病型分類に応用する提案があり, 遺伝子治療の可能性も示唆されている. また, 原因遺伝子が次々解明されている筋ジストロフィーの中に家族性拡張型心筋症として発症する例があることも報告されている. しかし, 特発性拡張型心筋症(DCM)については分子生物学的にはまだまだ不明な点が多い. 一方原因遺伝子の究明とは別に, 心筋細胞を遺伝子操作で機能的増幅, 修復したり, 細胞置換して心不全を治そうとするcardiomyocytoplastyという概念の治療法に関する研究が盛んになっている. |