Abstract | 第25回日本循環制御医学会学術総会を「Gender-Sensitive Medicineと循環制御」を主題として開催させていただきました. Gender-Sensitive Medicine(GSM)は男女差を考慮した医療ということですが, 生物学的性(sex)と社会的性(gender)の相異による病気の成り立ち, 各種治療への反応等々の差を意識して医療を進めることの重要性が認識され注目されております. 我が国においても「性差と医療」(Gender & Sex Specific Medicine)という雑誌も本年創刊され, 女性専用外来が急速に増加していることに象徴されるように性差医療に対する関心が急速に高まっております. しかしながら現時点では, これまであまり男女差を配慮せずに行われてきた研究および臨床の結果, 日本人に関する性差に関する基本的なデータが圧倒的に欠如しており, 日常診療において性差に関して普通に考慮される状況となるには大きな隔たりがあります. 今後, 基礎, 臨床, 社会医学等々の分野すべてにおいて性差に着眼した研究が進められ性差に関する基本的データを蓄積していくことが質の高い性差医療を提供するためには必須であります. 一方では, 昨今の性差医療に関する機運の高まりが徐々に成果を挙げつつある好ましい状況ともなってきております. たとえば, 日本総合健診医学会が約70万人の検診データをまとめた基準値には, 健康診断で実施されている基本的な検査23項目すべてに男女差が認められていることが明らかとなり, この結果をもとに性差を考慮した基準値が今後利用されることを聞き及んでいます. 今回の学術集会においても「男女差を考慮した麻酔周術期管理」のシンポジウムにおいてこの分野の性差に関する研究発表が6題集まり, 急性心筋梗塞の性差や遊離型外因系凝固日インヒビターおよびプラスミンアクチベーター1と頚動脈の内膜中膜肥厚との関係の性差あるいは大量出血に対する耐性の性差などに関する発表がありました. 手前味噌ですが, 筆者は最近登場したα2-agonistである鎮静薬デクスメデトミジンの副作用発現に性差のあることを見出した研究発表を行いました. このような, 日常診療で使用される薬剤の効果発現や副作用に関する性差の研究も極めて重要であります. このような臨床研究の結果, 大きな差が出て新知見が得られる可能性もありますしまた, 差が出なくてもそれはまた貴重な成果であります. 性差を考慮した医療は, 医療の個別化に向けた礎となるもので, 究極的には今世紀の発展が期待されているゲノム情報によるテーラーメイド医療へと繋がっていくものと考えられます. 学際的な本学会の循環制御分野の諸先生方が, 新たな切り口として性差に着眼した研究を進め, 性差医療の発展に寄与すること期待します. |