Abstract | 「はじめに」頭蓋外から非侵襲的に脳内の神経を刺激する手法としては, 経頭蓋磁気刺激法がよく知られているが, 経皮的前庭電気刺激も古くから行われている手法の一つである. これは, 耳介後部の乳突起に電極を貼付し, 一般には数mA程度の電流を通電するもので, 通電により前庭神経が刺激され, 前庭感覚, すなわち身体動揺感覚が得られる. 一方, 乗り物酔いを例に出すまでもなく, 前庭系と自律神経系とは深く結びついている. 本稿では経皮的前庭電気刺激(以下前庭電気刺激)により健常者の圧反射応答の向上が観察された例を報告する. 前庭電気刺激ヒトの前庭電気刺激の歴史は古く, 資料によればボルタによる電池の発明当時から行われており, 以来, 歩行や立位時のバランス調節の検討に利用されてきた(Fitzpatrickのレビューより1)). 臨床的には前庭疾患の病変の鑑別に耳鼻咽喉科領域で活用されているようである. 実際には, 皿電極や心電図, 筋電図測定用の電極を用いて左右乳突起間に通電すると0.1mA程度から前庭感覚が生じる. 生じる前庭感覚は通電方向に依存し, 陽極方向へ身体が傾斜する感覚が生じ, 実際に陽極方向への身体の動揺およびその逆向きへの眼球偏位が観察される. 肩, 額, 手首などにも電極を追加し乳突起との間で通電すると, たとえば額⇔左右両側乳突起間の左右そろえた通電では, 立位では額が陽極になった場合には前方へ, 陰極になった場合は後方への身体動揺感が得られる. また前庭神経は脊髄運動神経, 動眼神経など通電の影響を外部から直接的に観察できる神経系に限らず, 脳内の様々な部位に神経接続を送っている. |