Japanese
Title生体機能と人工臓器
Subtitle巻頭言
Authors妙中義之
Authors(kana)
Organization国立循環器病センター人工臓器部
Journal循環制御
Volume26
Number1
Page1-1
Year/Month2005/3
Article報告
Publisher日本循環制御医学会
Abstract人工臓器の研究は医学以外に種々の理工学技術や薬学技術などが融合し, 益々多様化してきている. 我々の施設でも患者の治療に応用するための治療用人工臓器を開発し, いくつかのものについては産業界との連携により製品化してきている. 重症心不全患者に対して一時的に使用して心不全から回復した時点で除去するタイプの体外設置型の空気圧駆動式補助人工心臓は, 最近では心臓移植へのブリッジ使用として長いものでは約2年間に渡って使われるような例も出てきている. 不足するドナー心臓の代わりとして全ての部品を体内に埋め込み, 健常な皮膚を介して電磁誘導の原理で伝送する電力で駆動する, まさにtether free(繋ぎ紐の無い)状態で患者を社会復帰させるための体内完全埋め込み型全置換型電気油圧駆動式人工心臓も慢性動物実験と長期耐久性試験の段階に入っている. 慢性動物実験で抗凝血療法をせずに数ヶ月間の体外循環を可能とした優れた耐久性と抗血栓性を実現した人工心肺システム, その要素技術を製品化した人工肺もある. この人工肺によって肺出血を伴うような重症心肺不全患者のヘパリンレスECMO治療による救命も可能となってきている. 世界で初めて実験動物を単独の遠心ポンプの連続運転で1年以上の生存を実現させた遠心ポンプもあり, 開発面で少しずつではあるが進歩を続けてきている. その一方でこのような長期使用が可能な人工臓器を実現してきたことで, これまで存在しなかった特殊な循環動態を作り出すことができるようになってきた. そのような人工臓器適用生体の病態生理の研究は, 装着患者の管理に反映するという点で重要ではあるが, 生体の統合機能全体の定量的解析に貢献する生体実験モデルという側面から見ると非常に興味深いものである. 我々の実験は無麻酔, 覚醒状態での慢性動物を用いているという特徴もあり, 神経系の関与も含めてできるだけ生理的な生体環境の下で実施することにも注意を払ってきた. 遠心ポンプを使用して動脈系の拍動流の脈圧を大きく低下させた実験は数多くの知見をもたらしてくれた. 興味のある方は論文などをお読みいただきたいが, 大動脈から末梢循環にいたるまでの形態に及ぼす影響, 血圧の調節系や血管の緊張に及ぼす影響, 生体リズムや自律神経系に及ぼす影響なども検討した. 世界的にも軸流ポンプや遠心ポンプを使用する臨床例が増えてきているが, 今後の臨床研究との対比の結果などを楽しみにしている. また, 長期使用のための人工肺の研究段階で, 人工心臓のポンプ技術と組み合わせることで, 心臓と肺を生体から全摘した慢性動物モデルも実現させることができた. 動物は生存するものの循環系の緊張を維持することが困難であったことから, 生体肺の循環調節機能に及ぼす影響に興味を持ち研究を発展させたこともあった. この研究も覚醒慢性動物で肺循環を定量的に100%から0%まで変化させるというモデルを作り上げて実施したが生体の統合機能の巧みさに驚かされる点も多かった. 最近の研究は分子生物学的な手法やゲノム解析の手法, IT技術を使用した研究などが全盛で, またナノテクノロジーの分野が重視されていることなどから, 益々細分化された専門領域に入り込んで行く傾向があるようにも感じられる. そんな中,時代遅れかもしれないが, 解明されたそれぞれの要素が, 統合された生体機能の中でどのような定量性を持って働いているのかという視点を常に持ち続けて行きたいと考えている.
Practice基礎医学・関連科学
Keywords