Abstract | 二十一世紀を迎え, 再生医学は最先端領域の研究として高い注目を集めている. これまで再生されることはないと教科書的に断定されていた神経細胞や骨格筋細胞あるいは心筋細胞についても, 再生能の可能性が示され, これまで夢物語であった難治性疾患の治療に一筋の光明が導かれてきた感がある. 近年の細胞核移植などの細胞工学や遺伝子解析技術の進歩によって, 1997年にはドリーに代表される哺乳類のクローン動物の誕生, 1998年のヒト胚性幹細胞(ES細胞)株の樹立, この数年間の骨髄単核細胞による各種臓器の再生治療の試みなどが相次いでなされ, 再生医学は二十一世紀初頭からの最も注目される領域になっている. 広範心筋梗塞や拡張型心筋症などの心ポンプ失調に対する薬物療法には限界があり, 薬剤不応性の状況では心臓移植しかない. 心臓移植は1988年の再開以来, 本邦では僅かに22症例しか施行されておらず, 能率が悪い. 心臓移植にとって代わる新たな治療法の確立が望まれる. 一方, 動脈硬化や糖尿病に伴う下肢閉塞性壊死(ASO)などは重症例では最終的に切断しか対処がない. これらの疾患に対して心筋や血管の再生が行われれば, 患者にとって福音になるであろう. 血管の再生を目指してVEGF(vascular endothelial growth factor)やG-CSF(granulocyte-colony stimulating factor)などのサイトカインの遺伝子工学による臨床応用が試されたが, 効果には限界があり, 期待されたとおりの成果が得られていない. 一方, 骨髄, 皮膚, 腸管上皮組織などには幹細胞が存在し, 活発な増殖によって新しい細胞が作られている. 骨髄由来細胞の中に, 骨格筋1)や心筋2)に分化するものがあることが報告され, 造血幹細胞の可塑性の考えの下で多くの組織の再生に応用が試みられた. しかしこれらはむしろ, 細胞融合によるものとして可塑性は期待薄であるとの結論になりつつある. 一方で骨髄細胞中に間葉系幹細胞の存在が観察され, 多分化能を有するものとして期待されている. さらにより強い分化能を示す成体多能性幹細胞(multipotent adult progenitor cell:MAPC)の骨髄内局在が報告されている3). 1998年にヒトでも細胞株が樹立された胚性幹細胞(ES細胞)は, 胚内細胞塊から分離され, 強い自己複製能(すなわち増殖能力)と多分化能を示す. ES細胞は今後の再生医療に強い期待が持たれるが, 技術的な問題とともに倫理的な影響も大きい. 既に骨髄単核細胞を閉塞性動脈硬化症(ASO)や糖尿病性壊疽に局所投与して血行改善を目指す臨床治験が本邦においても多施設で施行され4), 先端医療として認可された. さらに, 骨髄単核細胞の広範心筋梗塞に対する局所投与も試みられ, 今後の改善と臨床応用が期待される. 再生医学の発展には, 骨髄細胞やES細胞を中心とする細胞の各組織への分化誘導と増殖技術の開発という大きな問題が残されている. これらが解決された時には, 心筋, 神経など再生が不可能と考えられていた疾患の治療に大きな進歩をもたらすであろう. |