Abstract | 「はじめに」生活習慣の変化に伴い, 我が国における糖尿病患者数は著明に増加し, 現在では700万-800万人と推察され, これらの患者のうち医療機関で十分治療されている人は約半数にすぎないと報告されている. 糖尿病の多くは無自覚無症状であるが, 網膜症腎症神経障害など糖尿病に特有の細小血管障害(microangiopathy)および虚血性心臓病脳卒中閉塞性動脈硬化症などの大血管障害(macroangiopathy)という合併症を招来する. 細小血管の合併症は血糖コントロールの重要性が指摘されているが, 大血管合併症は耐糖能が境界型のものでも, 動脈硬化疾患の発症リスクは正常型に比べて高いことが報告され, カテーテルによる血管形成術や外科的血行再建手術が進歩した現在でも, 治療困難な症例が数多く存在する. 本稿では糖尿病患者において予後と関係の深い虚血性心臓病, 閉塞性動脈硬化症に対する再生医療の現況について概説する. 心血管系における再生医療の動向21世紀は再生医学の時代といわれ, その進展に大きな期待が寄せられている. そのなかでも心血管系の機能制御はすべての組織機能や生命維持にとって最も基本的かつ不可欠なことである. 血管は全長10万kmに及び, その基本構成細胞である血管内皮細胞が覆う面積は7000平方メートル, 重量は1kgといわれ人体最大の臓器であると考えられている. 従来成人における血管新生は, 既存の内皮細胞の増殖と遊走によるもののみであると理解されてきたが, 成人の末梢血には骨髄から動員された血管内皮前駆細胞が存在し生後の血管新生に寄与することが最近明らかにされた1). さらに骨髄に存在する多能性幹細胞が心筋細胞や内皮細胞に分化することが報告され2, 3), これらの幹細胞を用いた再生医療が循環器領域に応用されつつある. |