Abstract | 他の臨床分野同様に循環管理の分野でも, EBMと称される研究やそれをもとにしたmeta-analysisが多く報告され, 臨床治療指針が次々と発表されている. 心不全や心筋梗塞後など心機能抑制状態の疾患については, 長期予後の観点から, かつての"Cardiac support"から"Cardioprotection"へと方針が変遷し, 文字通り"循環制御"の時代を迎えている. しかしながら, EBMと実際の臨床応用に関しては多くの問題点を含んでいる. EBMに値する研究は, 臨床研究を充分に行いうる一定の機関で循環器専門医が中心となり行われており, 他の多くの施設で新たな指針を簡単に受け入れられるものではない. このことを端的に示す報告も次々と出されている. すなわち, 多くのEBMや学会, 連合会の指針にかかわらず, 受け入れ可能な施設も限られており, また, 方法も推奨薬物を用いる症例が限られていたり, 推奨量に達する量を使用していないことが認識されている. 個々の施設での治療, 関与する専門医がまちまちであり, 真の意味での多施設多専門領域による臨床評価が求められる. 周術期は統一した循環管理指針を利用することが難しい領域の一つである. 循環器専門医の示す統一指針の周知徹底不足や, 術前管理に対する循環器専門医の関わる程度の違い, 手術のglobal standard化がなされていないことや個々の術者による技量の差により, 周術期の循環管理においては麻酔科医が臨機応変に対応せざるをえない状況が多く, 周術期循環管理の指針に従うことを困難にしている. また本邦では周術期薬物治療ガイドラインの作成に周術期管理を担当している麻酔科医が含まれていないことも問題である. 一方で, 麻酔科医による術後長期予後に関する研究が盛んに行われるようになり, 麻酔管理のみならず, 麻酔方法や麻酔薬自体が長期予後に影響することが明らかとなってきた. 術中の低血圧が癌の再発率を増加させる, 術中の低血圧と頻脈は独立要因として患者の予後に影響する, 術中の低体温防止は長期予後を改善する, 術中の深麻酔は独立因子として患者の予後を悪化させる, 心保護の目的でのβブロッカーやα2アゴニストは術後心血管系合併症抑制から長期予後を改善させる等々, 麻酔中の循環管理も患者予後に大きく影響することが示されてきた. 欧米の指針に無い, 本邦で開発されたhANPやlandiolol等はcardioprotectionの点からEBMを満足する臨床予後改善が期待される薬物である. 積極的に多施設共同研究が行われてしかるべきであり, 欧米の指針を支持したり, あるいは改善していくことが期待される. 周術期循環管理においては, 循環器専門医と麻酔科医がより緊密に連携しあい, 相互のEBMとともに, global standard, quality assuranceを目標に本邦において広く受け入れられる指針策定が望まれる. |