Abstract | はじめに 近年の大規模臨床試験によってレニン・アンジオテンシン・アルドステロン抑制薬やβ遮断薬を用いた心不全治療の有効性が示されてきた. しかしながら, これらの研究の多くが心不全の生存率改善に注目したものである. 一方で, 生存率低下と並んで心不全を特徴付ける基本病態の一つである運動耐容能の低下の発症機序や薬物治療に対する効果に関してはまだ不明な点が多い. 安静時の心機能と運動耐容能は相関せず1), ドブタミン投与によって一時的に心拍出量を増加させても運動能力の改善や最高酸素摂取量の増加は認めなかった2). したがって, 骨格筋代謝や末梢循環などの末梢性因子が重要な役割を果たしていると考えられている. 本稿では心不全の骨格筋異常について, 我々の知見とともに概説する. 心不全における骨格筋異常 A. 骨格筋血流異常 運動中にはshear stressや交感神経刺激により血管内皮細胞から一酸化窒素(NO)合成酵素(NOS)を介してNOが産生される. 心不全状態では内皮性NOS(eNOS)の発現が低下していることが知られており, このことが運動中の血管拡張反応の低下, ひいては骨格筋血流の低下を惹起している可能性がある. |