Japanese
Title循環制御を拓く
Subtitle巻頭言
Authors笠貫宏
Authors(kana)
Organization東京女子医科大学循環器内科
Journal循環制御
Volume27
Number4
Page271-271
Year/Month2006/12
Article報告
Publisher日本循環制御医学会
Abstract1628年Harverの「動物の心臓ならびに血液の運動に関する解剖学的研究」の発表によって, "循環"は西洋医学, 生理学研究の中心となったといえる. 心臓は1分間約60回, 1日約10万回, 一生約28億回拍動し続け, そして1回約100cc, 1日約1万リットル, 一生約2億5000リットル血液を送る. ほんの10秒間の停止で失神, 2〜3分で突然死を惹起しうる. 私は35年前東京女子医科大学付属日本心臓血圧研究所内科に入局当時, 病棟の廊下にポリグラフを運び, 一晩中心電図波形の前に釘づけとなった. 不整脈ではなく呼吸性変動を伴いつつ, 規則正しくうち続ける正常洞調律の神秘さに感動したものである. その頃CCUでは多くの異型狭心症患者が入院していたが, Ca拮抗薬開発前のため難治性で致死的になり得る疾患であった. その病態解明に連続血圧モニター, REM(rapid eye movement)および脳波モニターを通して, さらに早朝心臓カテーテル室での冠れん縮の誘発試験等を通して循環のダイナミクスに魅了された. 一方, 26年前日本循環制御学会が産声をあげた. 当時麻酔医が中心であったと聞くが, 麻酔医は人為的にヒトの意識を奪うという本来ヒトがヒトに為してはならぬ行為を業務とする. その無意識下であるが故に循環を制御するという大胆な発想に至ったのかもしれない. いずれにしろ最近の大学院では循環制御という名称を用いる循環器内科学講座が多いのは循環器疾患の病態の本質が循環制御にあるためであり, そうした観点から麻酔医の先見性に敬意を表したい. 制御理論は古典的には制御工学の理論で数理モデルを対象にしたものであるが, 現代制御理論では線形システムから非線形の状態方程式を対象とした理論に展開し, その対象は多岐にわたっている. パラメーターが未知である制御対象に対する適応制御, 連続時間動的システムと離散事象を組み合わせたハイブリッドシステムを対象とする制御理論やソフトウェアアルゴリズムを使用した情報工学を発祥とした知的制御等がある循環制御理論はいかなる展開をするのであろうか. 第26回学術集会の会長就任時, 私は現代医学の進歩が人間による循環制御解明にどのような足跡を残してきたか, そして最先端研究の現状と展望を知りたいという衝動にかられた. 循環制御の研究の範囲は極めて広いが, その中で「心筋再生」「免疫・炎症」「睡眠」「機械的制御」をとり上げ, 各々のわが国のみならず世界的権威者であられる浅島誠先生, 岸本忠三先生, 本間研一先生, 渥美和彦先生に開拓者としての御講演をお願いした. その険しい道のりと輝かしい成果, それを通して各先生の哲学にふれられたことは若き研究者にとって宝となる筈である. それこそ循環制御の世代継続であり, 今後の展望を拓くものになると確信している. 今回取り上げられなかったテーマに「ストレス」がある. 10年前の情動ストレス負荷試験研究において同一の情動ストレスが個人によって交感神経亢進と副交感神経亢進という逆の反応をもたらすことを知った. 個人というブラックボックスは"身体""精神"のみならず"スピリチュアリティー(魂)"で構成される. 西洋医学は人類に大きな福音をもたらしたことは言うまでもない. しかし, 循環制御の研究においても, 生命の尊厳に対するヒトの傲慢さを戒めなければならないであろう.
Practice基礎医学・関連科学
Keywords