Abstract | 循環器系がホメオスタシスを維持し健全に作動する為には, 種々の神経性及び体液性因子による複雑な情報伝達や機能調節機構による巧妙な制御が必要である. その制御において, 近年, 循環調節ペプチドの重要性が認識されている. 筆者らは, 複雑な循環調節系を解明するためのアプローチの一つとして, 未知の循環調節ペプチドを探索, 発見し, それによる新しい循環調節機序を明らかにすることを目指して研究を進めている. 新規因子の発見は非常に大きなインパクトを与えると共に, それまでと全く異なった視点での研究の展開をもたらし, 新たな治療法の開発にも繋がる. 実際筆者らによるANP(1984年)やBNP(1988年)の発見によって, それまでポンプとしてのみ機能すると考えられていた心臓が, 循環器系に重要なホルモンを分泌する内分泌器官として位置付けられた, 現在ANPとBNPは, 新しい心不全の治療薬及び診断薬として臨床応用されるに至っている. また, 柳沢らによる血管内皮細胞からのエンドセリン(1988年)の発見や, 筆者らが脳から発見したCNP(1990年)が内皮細胞から分泌されることが明らかになり, 血管もペプチドホルモンを分泌する内分泌組織として捉えられている. さらに, これらのペプチドに続いて, ヒト褐色細胞腫より発見されたアドレノメデュリンおよびPAMP(1993年)は, それまで未知であった新しい循環調節系の存在を示し, また血圧調節や心血管系疾患の解明研究の新たな領域を開いたものといえる. 現在アドレノメデュリンは, 心不全, 心筋梗塞, 肺高血圧症などの治療や血管再生など幅広い分野での臨床応用の期待が持たれている. 一方, グレリンは1999年に新規成長ホルモン(GH)分泌促進ペプチドとして胃より発見されたが, GH分泌促進作用や摂食促進作用, エネルギー代謝調節のみならず, 心血管の保護や循環器系の調節においても機能することが明らかになっている. 本シンポジウムでは, 上記ペプチド性因子に加え, 近年心筋において新たな機能が注目されている古くて新しい因子としてのアルドステロンについて, この分野のエキスパートである4名の先生方に, 病態生理的意義や臨床応用への展望など最新の知見を中心に紹介して頂いた. 生理活性ペプチドなどの内因性因子は, 発見された当初の生理活性の他にも極めて多様な生理作用を有し, 循環器系をはじめとする生体の制御に深く関わっていることが明らかになりつつある. この領域の研究は, 新たな診断, 治療法を開発するうえで, 今後さらに重要性が高まるものと思われる. |