Abstract | 周術期冠動脈スパズムとは小柴らの報告によると1), 日本人の男性の上腹部手術中に多く発生し, 硝酸薬が著効する可逆性の病態と理解できる. その誘因の詳しい解析2)では表1のように浅い全身麻酔時の迷走神経刺激や昇圧薬の使用などが誘因となることが多いようであるが現在も完全に解明されているとはいいがたい. 本講座の最初のテーマは, 最近降圧薬の第一選択薬として使用され始めてきた(表2)アンギオテンシンII受容体拮抗薬(以下ARB)使用患者での冠動脈スパズムについて自験例をもとに考察したい. 症例は70歳男性で肺がんで右下葉切除術が予定された. 喫煙歴, 高脂血症があり高血圧に対してARB(商品名ブロプレス)を内服中であった. 術前心電図や病歴で心筋虚血を疑わせる所見はなかったものの, 麻酔導入後, 図1に示すようにII誘導心電図でST上昇が見られ硝酸薬とフェニレフリンのボーラス投与ですぐに回復した. 本症例を経験した後ARB服用患者における周術期冠動脈スパズムの文献検索(PubMed, Medline, 医中誌1997.4〜2007.4)を行った結果, TruongらがARB(商品名ミカルディス)服用患者の反復性の周術期冠動脈スパズムを報告していることが判明した3). |