Abstract | 「人工心臓研究の時代背景」2008年は日本の近代医学史とりわけ臨床医学にとって重要な年となろう. 補助人工心臓の日本発の2つのプロジェクトが世界をリードしており, 日米欧の臨床治験が最終段階を迎え, 一部は欧州で販売にいたっているからである. 心臓血管外科は半世紀にわたり, 欠損孔を閉じ, 狭窄を解除し, 逆流を止め, 血流を変換し, 虚血部位の血行再建を果たしてきた. そして, 心臓病治療体系の中で残された最終目標である「重症心不全」に対しても, 心不全の心臓を疲れた馬にたとえるなら, 強心薬などの薬物と言う鞭で叩く方法, あるいは疲れた馬を休ませたり代えたりする補助人工心臓と完全置換型の人工心臓, そして心臓移植などが提案され, その一部は臨床応用にまでいたっている. これまで計7万例, 年間3千例の心臓移植が世界で実施されているが, 臓器の提供は頭打ちであり, 日本は臓器移植法制定10年を経ても実施数が計50例という国である. この現状は長期使用可能な補助人工心臓を求めており, もし年の単位で安定使用可能なものが登場するなら, 心臓移植までのブリッジ使用にとどまらずDestination therapyと考えても良い. |