Abstract | 筆者らは心不全を伴った虚血性僧帽弁閉鎖不全患者では, 術前左室拡張末期径によって遠隔期外科治療成績が違うことを報告した, 心不全を伴った虚血性僧帽弁閉鎖不全には冠動脈バイパス術と共に僧帽弁輪縫縮術が最良の治療とされているが, 遠隔期の成績については議論の余地がある. 筆者らは, 中期の逆リモデリングを予測できるとされる, 術前の左室拡張末期径との関連から遠隔成績を検討した. 連続100例の虚血性僧帽弁閉鎖不全の患者が冠動脈バイパス術と僧帽弁輪縫縮術を受けた. 生存患者について中期と遠隔期に臨床的にまた心エコーを用いて評価した. 早期死亡率は8%, 遠隔死亡率は18%であった. 1年, 3年, 5年の生存率はそれぞれ87±3.4%, 80±4.1%, 71±5.1%であった. 死亡の予測因子は術前カテコラミン投与(hazard ratio, 6.2;95%confidence interval, 2.3〜16.9), 術前左室拡張末期径>65mm(hazard ratio, 4.5;95%confidence interval, 1.9〜10.9)であった. 左室拡張末期径が65mmかそれ以下の患者の5年生存率は80±5.2%で, これは左室拡張末期径が65mm以上の患者の49±11%に比し有意(p0.002)に良好であった. 平均43年の追跡で, NYHAの心不全クラスは2.9±0.8から1.6±0.6と有意(p<0.01)に改善した. また僧帽弁閉鎖不全の程度は0.8±0.7で, 85%の患者が軽度〜中等度以下の閉鎖不全であった. 左室拡張末期径が65mmかそれ以下の患者では逆リモデリングが経過中に認められた, 遠隔死亡をしたものは中期の収縮期逆リモデリングを示さず, このことはより広範に内在する左室の異常を示している. 4.3年の追跡で, 中期の左室逆リモデリングのカットオフ値は遠隔成績の予測因子として証明された. つまり術前左室拡張末期径が65mmかそれ以下の患者では, 冠動脈バイパス術と僧帽弁輪縫縮術で心不全を伴った虚血性僧帽弁閉鎖不全が完治できるが, しかしながら左室拡張末期径が65mm以上の患者ではそれだけでは成績が悪く, 左室に対する何らかの手技が必要である. |