Abstract | 今や心筋におけるリモデリング, 抗リモデリング, そして逆リモデリングに熱い視線が注がれている. 心臓がこれほど形状に拘っていたとは恐らく誰もが予想しなかっただろう. 心臓が病的になると肥大し, 拡大し, 心不全にいたることは剖検心を検索した病理学者によってよく知らされた. しかし, この心肥大や心拡大, それに心不全の連鎖を病理学的にどう解釈するか, 人類は大いに悩んだのである. 凡そ50年前, この心肥大・心拡大・心不全の連鎖の検索に敢然と立ち向かったヒトがいる. Linzbach AJである. 彼は, 病的に肥大し, 500gを超える巨大な剖検心臓を前にして迷ったに違いない. その挙句, (1)健常な心臓での心筋細胞数や毛細血管の分布頻度は基本的に同じである, (2)生理的な心重量は精々300g止まり, 高血圧などによる病的肥大・拡大が生じても500gの「臨界」点はそう超えないであろう, (3)「臨界」レベルを上回る心肥大, 心不全は心筋細胞数の増加を伴うのであろう, しかし, (4)臨界点を超えた心肥大, 心拡大, 心不全であってもサルコメア長は変わらない, 故に器質転換を伴った心拡大・心肥大になっていると思われる, (5)過剰な心拡大が心不全の本態である, 力学的にもエネルギー学的にも不合理である, の5点をあげて心肥大・心拡大・心不全連鎖の本質を喝破したのである. |