Abstract | 1. はじめに 脳は虚血状態に対して抵抗性の弱い臓器であり, 虚血によりひとたび壊死に陥った組織に対しては, いかなる治療法を講じようと無効である. 虚血性脳疾患に対して, STA-MCA吻合術, 塞栓除去術などの外科的治療法が開発されてきたが, これら血行再建術は, いかに緊急に行われても, 発症から最低6時間は経過してしまうであろうし, このあいだに, 虚血巣は梗塞に陥るのはまぬがれないばかりか, 症例によっては, 急性期の血流の増加は脳腫脹や出血性梗塞などをもたらし, かえって有害となる場合もある1〜5). われわれは, 脳神経外科医の立場から, 発症から手術に至るまでに不可避的な数時間のあいだに, 脳組織が不可逆的変化に陥ることを防止しうる薬物療法の開発を目指して, 種々実験的に検討してきた. 脳圧下降剤であるmannitolの脳梗塞の発現抑制効果については既に実験的6〜11)および臨床的12〜17)な面から報告してきたが, その後, 人工血液として開発されたperfluorochemicals(通称fluorocarbon:FC)の高い酸素運搬能に着目し, FCの虚血脳に対する防御効果についても検討したところ, とくにmannitolとFCを併用した場合に優れた脳保護作用を示すことが判明した18〜22). |